倉橋さん

今号のクウネルに倉橋由美子さんを特集した頁があると聞き、見つけてたぷたぷと読みなごむ。写真の手書き原稿もきれい。記事はおもに倉橋さんのお人柄について、次女のさやかさんがなつかしみをこめて日常の姿を語っている。知的でゆったりとして。自然な好奇心でリズミカルに前進していく女性像。私なりに、年を重ねるほど、どんな時でも、どんな場所でも誰に対しても、知的でゆったりとしているということがどんなに美しいことであるか、つくづく実感するのです。

ku:nel (クウネル) 2010年 01月号 [雑誌]

母と娘というとかく濃密なものになりがちな関係が、倉橋さんの場合は、甘えのない爽やかな距離感で語られているのも、印象に残りました。


ちなみに先日さらっと読んだ『スタイル(文体)の文学史』で、倉橋さんが「現代女性文学の文体」のひとつに取り上げられていた。デビュー作の「パルタイ」を例にあげ、「倉橋由美子の文体の特徴は、現実に起こったことを意識内部でとらえ直し、観念として再構成するところにある」「皮肉な視線と批判精神」「このシニカルな文体は、文学の上で常に見られる客体であった女が見る主体に転換した画期的な文体」などとある。パルタイをあげるのはどうかなと思うし、やや紋切り型の批評であるように感じるけれど、様々な作家の文体を手際よく解説していったこの本を、楽しんだのだった。
私が思うに、倉橋さんの文章は漢語がとてもよく合います。歴史的仮名遣いを選択した作家でもあるのだし、まず語彙から入って(歴史的仮名遣いは個々の単語を大切にする仮名遣いなので)、リズムや呼吸の身体性も重視していく文体かなと。新・教養主義ともいうべき洗練された日本語の文章だと思います。