心が乗る

 その香水瓶は、壷のように丸く膨らんだ形をしていた。とろけるような翡翠の緑に、ミルクの白さを混ぜ合わせた色合いで、宝石のような反射光を放っていた。瓶だけでも相当に値が張る品のようだ。栓の部分には、同じ材質で作られた一羽の鳥が翼をたたんでとまっていた。鳩のように見える。嘴に小さな花束をくわえている。瓶の底には「〈LABO馨〉アン・レーヴ・スクレ」と書かれた金色のラベルが貼ってあった。

上田早夕里『美月の残香』(光文社文庫)より。空想や妄想をかきたてるのにほどよい、変に独創すぎない、平らかで美しい香水瓶の描写。2時間ほどで一息に読みました。文庫本の表紙がこの描写の瓶ではないのが少し残念。

 香水の壜にも煙管にも私の心はのしかかつてはゆかなかつた。

これは梶井基次郎檸檬」の一節。心が物に乗る、恋人が自分の心に乗る、という動作性をともなった「心」の表現は万葉集にも多く、といってこれはその系譜そのままの表現でもないのですが、ツイッターで見かけました。