変わった植物

・今週は研究会に参加し、某先生から、ある植物の比喩についてたいへん興味深い考察をお聞きする。古代の植物の爆発的な生命力が、「世界樹」のようなイメージ図で頭に浮かぶ。ただし日本において「巨木」や「巨柱」の伝説はメジャーなれど、世界樹のように現在形で世界を維持する樹木はなく、世界樹ならぬ巨木は滅びの幻想の中でこそ語られているように思われ、先生のお話を聞きつつ、そのような神話的イマジネーションの広がりも楽しむ。
・仕事の方で、ヤマグワやシナノキといった日本でよく見られる樹木の来歴についての文章を読む。シナノキとボダイジュの関連、ヤマグワとクワの関連。中国やインド。シルクロード
・家では、『植物怪異伝説新考(上)』をつまみ読みしている。表紙をめくったところに梅の木の絵があるが、ぐりぐりとねじれた葉、黄色の斑点がぶちぶちと入った花、何らかの強烈な病気におかされているとしか思えない、おそろしい梅である。「五色梅」というらしい。

 怪といい異というのも見る人によってちがう。また、その時代の文化も背景となるから時によってもちがってくる。
 正常と異常もまた壁一重である。正常の状態を知らない人には正常もまた異常に見える。観察の鈍い人には異常も正常に見える。それで、植物では動物に較べて妖怪が複雑である。
 美も醜も見方一つである。美もその度を越えると却って妖となり醜となる。瑞祥とするか、凶兆とするかもまた人により、時代によって、異なってくる。
(中略)
…植物妖怪を科学的に説明することは、もとよりそう困難ではない。古い記録の記事があまり簡単なために判断に迷うこともあるが、説明は不可能ではないのである。けれども、これらの植物妖怪をただ植物学的のみに取扱って論断してしまうことは誤ってはいないが、説明はなお不十分である。民俗学的にも、また、方言学的にも、さらに考慮してみる必要があるように思われる。植物妖怪の名実考証には、植物分類学・植物形態学・植物生理学・植物生態学・植物地理学・植物畸形学・植物病学はもとより、事実の関連上から地質学・古生物学・動物学・農学・林学などの知識もまた緊要である。それに、宗教学・民俗学・方言学なども考証には欠くべからざる基礎知識である。


植物怪異伝説新考〈上〉 (中公文庫BIBLIO)


春ってことさらに樹木に触れたくなる季節なのです。黒い幹や、芽吹きが恋しい。うぶ毛とか。昨年までは『櫻史』を毎年読んでいましたが、今年は趣向を変えてみたり。