植物随筆

牧野富太郎『牧野植物随筆』(講談社学術文庫)。
枝いっぱいに咲いた桜の花と清らかな丸い月が毎日あんまりきれいで、いったい、桜が終わったら私は何を楽しみにすればいいのか…という不安すら感じ始めた。そこで植物の本を読んでみた。植物学の父・牧野せんせーの威勢のいい男ぶりが出た文章。様々な植物の名前について、文献と実地を照合していく。
例えば「馬鈴薯」というのは中国の文献に名前が出てくるそうで、それを江戸期の日本人がジャガタラ芋の漢字名に転用したのだけれども、もとの中国の文献をよく読んでみたらそれはどう見てもジャガタラ芋ではない、てな喝破。
古文献の中の植物を、まるで見てきたかのように確信を持って語ります。これはたいへんな知識と柔軟さが必要で、ものすごく難しいこと。読んでいる私の目の中に、古めかしい植物図譜の墨絵と、リアルな植物のやわらかい緑の線と、徐々に二重写しになってくるような感覚。牧野富太郎の散歩に付いて行ったりしたら、文献とリアルで毎日どんなに楽しい発見があるでしょうか。
そして時折、牧野せんせーはさらっと、「数年前、実際に○○の植物を入手したことがあったが枯らした」(!)と爆弾発言をするのでした。

牧野植物随筆 (講談社学術文庫)