狩人の血

一昨日の夕方は、京都府勧業館の古本市に。
その日の店じまいまで50分ほどしか時間がなかったので、普段でも行ける京都市内から出店の古書店は飛ばし、大阪から来た古書店を一気に見て回りました。狩人の血が騒ぎ、いろいろ買いこんでさっそく読んでます。
平安神宮に美術館に動物園に図書館に武道会館にといろいろ集まってる区域なので、東大路も二条あたりから渋滞してました。
勧業館の前で観光客らしき20代半ばの女子が2人、「ここでやるんだ〜」と建物を見上げています。
彼女らのそばに「古本市」ののぼりが立ち並んでいるので、森見登美彦読者なのかなと思っていたら、「ビッグサイトほど大きくはないねー」「小さいジャンル向きだねー」って言ってて、うけた。あはー、そっちのイベントね。

買ったのは単行本で群ようこ『贅沢貧乏のマリア』、アニータ・ブルックナー『秋のホテル』、文庫で大庭みな子『寂兮寥兮』(河出文庫)、山口瞳『血族』(文春文庫)、ナタリア・ギンズブルク『ある家族の会話』(白水uブックス)、三好達治『詩を読む人のために』(岩波文庫)、合わせて1200円。自分の波長が本とうまく合う日・合わない日があって、せっかく書店に入っても、合わないと手ぶらで出て来てしまうのだけど、この日はちょうどいい感じでした。
大庭みな子さんの『寂兮寥兮』は「かたちもなく」とふりがながあり、『老子』出典の語のようです。ふわふわ生きてる女性の話で、子どもの残酷さ繊細さ鈍感さをずっと持ち、大人ではなく子どものまま女になり母に老婆になったような。誰もが大人たることを求められる現代と比べて、違和感を覚えつつも、得体の知れぬ文章の流れにすっぽりとはまっていく。案外、好きな小説。

小説中に古事記が引用されてるのだけど、古事記天皇制とか自然のあり方、時代背景などをどんどん取り去って、結局のところ「男女」のからまる古典として引用しているのも、大庭みな子さんらしいと思いました。

後半に、ひとしきり怒濤のポルノ描写があります。読んでいる間は息をつめているものの、終ってしまえば後をひかない。最後は女の自我が溶けてはかなくなってしまうような淡い読後感。おぼろの川霧に隠れていくうすむらさきの花。


講談社文芸文庫の書影を。

寂兮寥兮 (講談社文芸文庫)