オルガニスト

山之口洋オルガニスト』。至高のバッハのオルガン音楽を追い求める2人のオルガニストと、その友人2人の物語。
インベルガー教授、ヨーゼフ、テオ、マリーア、それぞれの演奏会に行ったら、たぶんそれぞれにとても優雅で濃密な時間を過ごせることでしょう。音楽家は神を知覚する宗教家であり、美しいものを見せてくれる表現家であり、ゆえにエンターテイナーの側面も持ち、そして苦悩多きただの1個の人間でもあります。
「オルガンの扉」を開けてたった1人で暗い階段を上っていく人。
「義(ただ)しいバッハ」を唯一の正解として大胆に究めていったラインベルガー教授には、ほんの少し日本画家の上村松園がよぎりました。人物たちの映像そのものは実写と萩尾望都さんの絵の入り交じったような姿を思い浮かべましたが、視覚以外の印象として、少し加えて。松園さんは京都の人として、時代考証、風俗考証に非常に厳しい。そして松園さんの描く京都の婦人たちは、どこまでも端正でどこまでも柔らかく、徳が高い。自分の個人的な感情を露にすることを潔しとしない。一見したままの感情しかそこにないように見せています。しかし心はひと色ではない。いくつかの絵は、生身の人の心のそんな微妙さを垣間見せてくれます。少しの頽れがひどく魅力的でもあります。ラインベルガー教授は男性的な厳しさ全開の人に思われましたが(そして私は大学における師弟関係の独特の難しさにもたっぷりと覚えがあるのですが)、読み終わった後で思い返すと、謹厳さよりも、なぜか正反対のたおやかな美しさが胸に残りました。異常なほどの優しくなさが、優しい。
ヨーゼフはあんなことをすべきではなかったのに、かわいそうに。

オルガニスト