コラムで読むアメリカ

常盤新平『コラムで読むアメリカ』(旺文社文庫)も読む。先月、四条のブックファーストで展開されていた、古書善行堂さんおすすめの絶版文庫のコーナーで買った(680円と高めの値段)。地味な書名だけど読んでみたら面白い。1970〜80年代、血湧き肉踊るニューヨークの出版界と物書きの姿が(ゴシップネタも含め)時々刻々と新鮮に紹介され、それを日本まで取り寄せて読んでいる筆者の感慨もなるほどと思う。村上春樹さんのアメリカ文学紹介と重なるところも、興味深い。村上さんが特定の作家や編集者たちに胸がつまるほどの個人的なシンパシーを感じていたとすれば、それに比べ、常盤さんはのんびりしつつつも、もっと広くドライに観察する目線で書いているような。
アメリカにも純文学と大衆小説の区分けが漠然とある(あった)らしい。しかし出版界の花形はフィクションよりもノンフィクション。ノンフィクションは企画書からそれなりに完成形の予測がつけられるから、原稿料は前払いで、存分に取材をさせて書かせるのだとか。またベストセラーが当時のニューヨークでは確たる重みを持っており、書評家たちは注目の新刊のゲラ刷りを争って入手し、発売前から雑誌で論争が始まるという。当時のアメリカ人のネタバレ観はよく分からないのだけど、紹介されている書評の断片を読む限り、内容を詳細に解説する型の書評ではないようなので、それでいいのだろう。1冊の本の価値を決めるのは「テーマ」なのか「描写(文章)」なのかエトセトラ。
常盤新平自身も、早川書房のミステリ雑誌編集者から職業作家になった「物書き」だ。
普通の人が普通に我が道を行って、それを職業にして、金銭や時間や自分自身と適当に折り合いをつけながら独自の世界を少しずつ切り開いていく。それが集まって時代とともに「読書世界」がつくられてゆく。文庫の最後には軽い日常雑記と読書エッセイがおさめられており、なんでもない文章に気持ちがなごんだ。

おじさんだなあ…。スロウネット・インタビュー:http://www.slownet.ne.jp/sns/area/life/reading/interview/200602161346-1000000.html