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時折、彼は心について考える。それはたいてい彼が苦難に陥ったとき、厳しい判断を迫られたときであり、ひんやりとした大理石に額を押し当てるような冷静さの中で、彼は己のその心の落ち着きを、しかして後に下す選択こそを不可思議で謎めいたものと思う。心と魂、自我、意思、理性と感情、わかること、悟ること、望み、願い、記憶、経験……己をかたちづくる諸々のものを切り分け、これと名付けて並べるのは誰にも不可能なわざだとわかってはいたけれど、それでも彼は考えずにはいられない、いったい何が己をして「そう」させるのか。何が己をして「そう」決意させるのか。