天変斯止嵐后晴

文楽劇場の夏公演へ。時間の都合から、今日は第三部のテンペストに行きました。そうなのよ、テンペストシェークスピアの。「天変斯止嵐后晴(てんぺすとあらしのちはれ)」という翻案。舞台は日本の中世に置き換えられていますが、大筋は原作をなぞっています。
文楽において、夏公演は1年間でゆいいつ新作がかけられることのある公演で、テンペストはもともと数年前にロンドンで歌舞伎など日本の古典芸能がそろって公演する機会があった時に、文楽のロンドン用の新作として挑戦した作品だそうです。ただしその時は準備が間に合わず、古典の曾根崎心中などを持っていったとのこと。でもせっかく作った芝居なので、イギリスから帰国後に東京と大阪で4日間だけ公演をおこない、それを今年もう1度練り直して、大阪(と冬の東京も?)で本公演にかけたという次第だそうです。


前置きが長くなったので、各段の感想は明日にでもゆっくり書きたい。
そうだなあ、ちょうど2時間でまとまりよく楽しめる芝居でしたが、やはり「挑戦」の域を超えてはいなかったと思います。乱暴に言うと、シェークスピアのストーリーを文楽っぽい型にはめて消化しただけ、に近い。いまひとつキャラが生きてないし、文楽〝っぽい〟型という中途半端ぶりは憎らしいほど。しかしそのことによって、あらためて文楽という演劇を相対化できたともいえます。「文楽ってこんなこともできるのか!」ではなく、「(現在の)文楽ではこれはできないのか!」という驚きがあって、シェークスピア劇と文楽のことを甘く見ていた自分に気づかされました。シェークスピア、すごく面白いんだねー。文楽も面白いのです。こういう驚きって必要だし、新作って必要だな、と実感しました。


その中で光っていたのは呂勢大夫さん・宗助さんコンビの床と、妖精(原作ではエアリエル、文楽では〝英里彦(えりひこ)〟)の活躍。本来ならばシンは千歳大夫さんのはずなのだけど、千歳ファンの私としても、千歳大夫さんの喉は聞いていて心配。でもまだ公演3日目だし、いつも公演後半に向かって劇的に調子が上がる大夫さんなので、変化があるのかもしれない。
妖精は出てくるたびにチャラララ〜という鈴や箏の効果音が入り、慣れるまではうるさいくらいに演出してくるし、美貌ながらあっさりさっぱりした性格に見えるので、色気が足りん…とは思いましたが、これはこれで楽しかったです。空中を泳ぐように飛んで移動し、足遣いさんの動きも常と異なっている。文楽らしい雰囲気のある異形(千本桜の狐忠信みたいな存在)というより、ひょっこりひょうたん島とかプリンプリン物語とかテレビの人形劇三国志とかに出てきそうなキャラ。かわいい。かわいがりたい。

あとは、和生さんの春太郎(=ファルディナンド…すごい翻案)が相当きれいだった。左遣いの方も良かったのでは。美登里(=ミランダ)とのバランスはどうかなーと思ったけれども。
というか、今回の感想、文章で書くより絵で描けたらいいのに(笑)。


第二部の朝顔も行けたらと思っている。行けるとしたら来週の木曜かなー。