幻化

空気が秋のように透明だ。すっかり涼しくなって猫もわらわらと姿を現す。


今日は春からの仕事がひとつ終わったので早く帰った。帰りに古書店めぐりをしよう!と思い、というのはあれですよね、明確なムチもなかったけど、甘えて飴がほしいという。目星をつけていた新しい古書店2軒に入って、1冊ずつ購入した。そのうち1軒では、自意識過剰のせいだと思いたいんですが、奥に座っている店主さんの「この店を受け入れてくれるだろうか、どうだろうか…」という緊張感がギュッと伝わってきて、思わず10秒で本を選んで会計をすませて店を出た。古書店らしい良い品揃えだった気がする。たぶん。
それから北白川のセカンドハウスでスパゲティを食べて帰ろうとにこにこしながら行ったら、いつのまにか店が改装されてケーキと珈琲のみになっていた。「スパゲティは…」とおそるおそるたずねると、北白川店はケーキ専用の厨房に改装しちゃったんですけど、他の店舗ではつくってます…キッシュとかならあります…ととても残念な感じに言われてしまった。わああ…。珈琲を飲み飲み栗のケーキを食べました。


かばんの中には梅崎春生の長編『幻化』が入っていて、もうすぐ読み終わるところ。「仮像」は人の顔を見るうちに悩ましさがわきおこる「私」の話。次の「幻化」ではいつのまにか入院していた東京の精神病院から抜け出し、20年前の戦争体験の地、鹿児島の海辺へ来た「私」。はっきり言ってたいへんな話だ。しかもよくこんな文章で、と思うほど端正でユーモラスで、食いものや音の描写などがおいしそうで楽しそう。それが時に鋭い刃をひらめかすような、ひらっとおそろしい文。気づいてしまってからずっと背筋がぞくぞくしている。

幻化 (1965年)