くだ狐

お墓の前を通る時に「親指を握り込んで隠す」、そうしないと何やら悪いことが起きる。この系統の俗信って日本全国にあると思うのだけど、図書館で借りた『妖怪文化研究の最前線』に、こんな明治の事例の紹介が。

 子供の頃(明治三六、七年)「丈おっしゃんの家にはくだ狐がいる。くだ狐は小さい狐で、指の爪の間からでも体の中に喰い入って、肉をみんな喰ってしまうぞ」と聴いて、夕方など其の家の傍を通る時は、四本の指の爪は握って隠し、母指は仕方がないから両脇に押し付けて、逃げるように通りすぎたものだった。(長野県埴科郡

安井眞奈美「妖怪・怪異に狙われやすい日本人の身体部位」より)

くだ狐、それは指の爪の間から人体に侵入するもの。
名前の通りに竹筒の中に入ってしまうほどの大きさ、またはマッチ箱くらいの大きさで75匹に増える動物…75匹は眉をひそめるよね…。
上の伝承は、なぜ「丈おっしゃんの家」が選ばれたのかというのが当然気になりますが、その理由が何であれ、すでにこの村に恐怖があり、私はその事実を事後のものとして読むしかないわけで、そう思うと無力感にもおそわれます。